理事長・理事挨拶

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理事長挨拶

川副 浩平かわぞえ こうへい

人工心肺が実用化されたのは、わずか60年前です。以後心臓外科は急速に展開し、特に平成の30年間は頂点を目指して駆け上るが如く目覚ましい進歩を遂げてきました。将来に目を向けましても、社会の高齢化で心臓血管病は依然として増加傾向をたどると推定され、心臓血管外科の役割はますます大きくなると考えられます。その一方で、超高齢者の増加が患者の病態を複雑かつ重症化して、外科手術の難度が上がるとともに内科治療との術前後の協働が欠かせなくなっています。また、手術治療に代わるカテーテル手術の開発が急速に進み、外科医はこれにもハートチームの主要なメンバーあるいはリーダーとしての務めを負うことになります。このように、心臓血管外科は新たな挑戦の時代に突入しつつあると言えます。

一般的に外科医が手術を修得する過程を考えると、次のように3段階に分けて考えることが出来ます。

  • 幾人かの先達の手術を学習する
  • それを理論と共に吸収して自分なりに再構築する
  • そして自らの手術を実践する、の3つです。

このプロセスにおいては優れたメンター(指導医)は欠かせません。学習はもちろん、知識としての手術を自らの型に仕上げる醸成過程、そして次の実践過程をイメージ通り成功に導くプロセスにも影響を及ぼします。先達の優れた手術手技を咀嚼して継承していくプロセスをこの会を通じて広く行っていきたいと考えています。メンターは手術を通じて自分自身の「生き様」を伝えることができれば、そして若い医師たちに自分の知識や経験を活かしてもらうことができれば、これ以上の喜びはありません。

日本の医療の将来に向け、変化する時代の要請に即応し、高度な技術とチーム医療におけるリーダーシップ遺伝子を引き継ぐ次世代の心臓血管外科医を育てることと、そしてより洗練された手術の再構築能力を身につけたいと思う若い医師が多くなることを期待しています。そして近い将来、心臓血管外科チームとして高いクオリティを発揮し、待遇面においても良い環境になることを望みます。私たちの使命は、日本の将来へ向け、より洗練されたexpertise を備えた次世代の医療人を育成するとともに、心臓外科医のより良い環境を整備することと考えています。

川副 浩平

理事メッセージ

大北 裕おおきた ゆたか

自立した心臓外科医

 心臓外科医を目指す若人は誰しも、当初は理想に燃えて、野心に溢れ、体力充実、向学心満杯でその門を叩いたことだろう。はじめの研修は文字通り無我夢中であろう。しかし時を経て、技術・知識を蓄積する内に、様々な疑問、不安が生じてくるのが常道である。果たして、自分は心臓外科医として、独り立ちできるのであろうか?少なくとも私は若い頃からこの命題取り憑かれていた。目標達成のため、毎日、飽くことなく机上の縫合練習を繰り返し、手術では先輩の叱責にも耐え、必死に自己の技量の上達に励んだ。先達の手術も暇さえあれば、見学させてもらった。心臓外科のlegendsと言われる人たちと同じ時に同じ空気を吸い、共通の目標に向かって邁進する経験を得たことは実に貴重であった。現在の心臓外科トレーニング環境は昔と比べて格段に改善してきた。OFF JTの充実は素晴らしいものがある。Non-technical skill の重要性も重々承知である。しかし、それをこなしただけで、自立した心臓外科医が養成できるか、は甚だ疑問である。心臓外科医の育成はマニュアル通りにはいかない。ON JTの修羅場は各人、極めて違っていて、色んな局面で、各自の全人格が試され、評価される。

 実際に麻酔にかかった物言えぬ無抵抗な患者を前にして、周りに頼る人間もなく、自分の腕に、患者の命運が懸かる手術に臨むときは、今でも心は怖ろしくおののき、身震いする。自分の逡巡が周りに悪影響を及ぼさぬかと、必死にそれを隠す。手術後の経過でも、何か悪いことが起こりはせぬかと、心安まるときはない。これまで、手術させて頂いた患者、すべてが順調であったわけではない。Lerische 先生の言葉を借りるまでもなく、自分の外科手術歴を振り返ると後悔、悔悛、反省、自虐の連続である。何度か、心折れそうになった時には、“この失敗を次に生かそう”、“次はもっと良くなる“と信じて辛うじて自分を支えてきた。この様な、患者と対峙するときの生命への畏怖心、というか、謙虚な心、そして、挫折しない心、が日常臨床において大変重要であると思っている。

 本邦での心臓外科を取り巻く環境は年々厳しさを増しているように見える。2016年現在、日本心臓血管外科専門医認定機構が把握している我が国の心臓血管外科認定施設は 580余存在し、年間心臓大血管手術約67,000例、腹部大動脈以下を含む血管手術 38,000例がなされている。開心術に代わるカテーテル治療が開発され、手術の低侵襲化は避けようもない。その反面、Open surgery の患者はより重症化、手技は複雑化し、患者の要求度も高い。その一方で外科医の勤労意欲を削るような一律平均化した保険支払い制度が未だ変わりようもない。片や、国を挙げての労働時間短縮の大合唱に呑まれて、医療界も患者ケアーの重要性を差し置いて、サラリーマン医を量産しようとしている。かかる時代に生きる心臓外科医にとって、何を拠り所に、何を目的に生きてゆくか、大いなる想像力を駆使して、外科医自身が自分で模索してゆかねばならない、と思う。

大北

夜久 均やく ひとし

エクスパートサージャンに求められる要素は何か?-3つの要素があると考える。

  • 卓越した技術
  • 患者を中心とした利他的な精神、そして
  • 強いリーダーシップである。

それらをどう涵養していくかにおいては決まった道筋は無く、個人の自覚、努力、置かれた環境に依るのが実情である。各施設でのトレーニングプログラムはあっても上記の要素をすべて包括して指導することは困難な場合も十分想定できる。本組織の目的は、各心臓外科医、あるいは施設に対して、次世代エクスパートサージャンを育成する手助けをすることである。実際には、手術に対する考え方の指導、チーム医療の中での手術手技の指導、学術的、あるいはリーダーシップ・自己鍛錬等の学習会の実施等、様々な企画で上記目的を達成していきたい。プロフェッショナリズムを身に付けたエクスパートサージャンがしっかりと育っていくことが、心臓血管外科の将来の発展につながると信じてやまない。

夜久 均

高梨 秀一郎たかなし しゅういちろう

心臓外科を標榜する病院は、日本全国におよそ500程あります。しかし、安全に、高度な心臓手術ができる病院として認められるには、限りがあります。

患者さんも手術を受けるのであれば、安心して、近くで、安全にと考えているはずです。
「手術は外科医が行うもの」。そう思っている医師は多いのではないでしょうか。他方、患者さんとしては、最適な治療方法は1つであってほしいと願うものです。しかし実際には、心臓疾患に対して内科と外科は各々が独自の治療方法を持ち、そこに選択の余地があるとは想像もしないことでしょう。自分を評価してくれる循環器内科医と付き合い、その医師も一流である必要があります。

作家が作品を通じて自分を表現するように、外科医にとって手術は自分を表現できる機会です。手術を通じて自分自身の「生き様」を伝えることができれば、そして若い医師たちに自分の知識や経験を活かしてもらうことができれば、これ以上の喜びはない、そう思います。

私たちの使命は、日本の将来へ向け、次世代の優れた医療人・臨床家を育成するとともに心臓外科医のより良い環境を整備すること、一人でも多くの患者さんの役にたつことと考え、当法人を設立いたしました。心臓血管外科チームとして高いクオリティを発揮し、待遇面においても良い環境となることを信じております。

高梨 秀一郎

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